2006年02月21日朝日新聞

 まちづくり地域課題研究サロン
 トークバトル【地域の自立とはなにか!】


<3> I T 化

●情報が磨く経営センス

●農家の知恵と願い結晶した姿

 内子町内子の農産物直販所「内子フレッシュパークからり」に、農家の森本純一さん(52) が同町大瀬の自宅にあるビニールハウスで育てたハーブを運んできた。軽トラックで約30分の距離だ。
 値段を決めてパソコンに入力すると、生産者名と価格、バーコードが入ったシールが印刷できる。ハーブの袋に1枚ずつ張り、店頭に並べれば出荷作業は終わる。
 消費者が購入すると、レジでバーコードを読み取り、支払額を計算するだけでなく販売データも記録されるPOSレジが導入されている。
 販売個数や残数は自宅のFAXなどでからりのサーバーに接続すれば瞬時にわかる。追加出荷し、新鮮な農産物を売れるだけ店頭に並べられるだけでなく、売れる農産物や価格が把握できる。年商6億を誇る秘密の一つが、この「からりネット」だ。
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 からりの前身「内の子市場」が開店したのは94年7月。会員は約70人だった。新鮮さを売り物にするため、「朝出荷。売れ残りは夕方引き取り」 をルールにした。市場まで30分の農家なら、朝夕2時間取られる。「どうすれば売れ残らないか」。農家に工夫を迫った。
 夕方になると、市場の電話がひっきりなしに鳴った。「私の出荷したものは残っていますか」。 その度、レジ係が商品棚に並ぶ野菜の数を数えた。「家や畑にいながら販売状況が分かったらいいのに」。 そんな願いを託されたのが町農協職員だった森本さん。町嘱託職員として開発を手がけることになった。
 森本さんは、91年に稼働した肱川流域の農家がパソコン通信で情報を交換する「ひばりネット」 のメンバー。第5回農業情報ネットワーク全国大会を93年に町に誘致した1人でもある。こうした活動を通じ、「出荷後は農協任せの農家に未来はない。消費者や市場の動向を考えないと。そのためにIT化が不可欠」 と思うようになった。
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 翌年2月、第6回のネットワーク全国大会で宮城県を訪れた森本さんは、農家に置かれたFAXで出荷データを入力、JAに送信して蓄積するシステムを知る。液晶画面の指示通りにFAXの大きなテンキーを操作するので、お年寄りにも使いやすそうだった。
 その年の9月には県農業会議の視察で徳島県上勝町を訪れ、葉っぱビジネスで注目を集め出した 「いろどり」 の横石知二副社長(47)と出会った。
 市場からいろどりに発注があると、防災無線を使った同送FAXで農家に注文内容が送られ、納品したい農家はいろどりに電話して早い順に受注するとても公平なシステムだった。
 農家の端末はFAXがいい 森本さんたちの構想が固まった。からりオープンから、2カ月の練習期間を経て96年7月に「からりネット」 が稼働。農業関係者の注目を集め、横石さんも見学に来た。
 森本さんが退職して専業農家になった今も、からりネットは進化を続けている。携帯電話から販売状況を知ることができ、各農家は畑で作業しながら追加出荷の判断をするまでになった。 農家の知恵と願いが結晶した姿だ。 IT化は経営センスを磨き、地域産業を創造する力強い武器となる。

年間50万人が訪れ、都市の住民と地元の農業者との交流の場にもなっている「内子フレッシュパークからり」=本社ヘリから
バーコードが印刷されたシールをハーブに張り付ける森本さん。自分で値段をつけることが経営センスを磨く第一歩になる=内子町の内子フレッシュパークからりで