2006年02月23日朝日新聞

 まちづくり地域課題研究サロン
 トークバトル【地域の自立とはなにか!】


<5> ひとづくり

●すてきな縁結びたい

●遊び心と学び心 実践する場を

 内子町大瀬にある川登筏(いかだ)の里交流センター「いかだや」 に昨年末、愛媛大学農学部の2〜4年生22人が訪れた。3泊4日の農業インターンシップで、カキの収穫や堆肥(たいひ)作りに汗を流した。
 受け入れたのは近くの農家7軒。6年前から世話をする森本純一さん(52)は「作業の計画は立てないといけないし、学生とのコミュニケーションも必要。農家の方も学ぶことが多い」。
 森本さんは、2年生の楠岡大賢さん(20)ら3人をリーダーに、学生たちを3班に分けた。連絡事項はリーダーに伝え、具体的な指示は一切しない。各班は農家と相談しながら作業を進める。自主性こそが自立した農家と学生を育てると信じるからだ。
 交流センターは04年7月にオープン。昨年12月に千人目の宿泊客を迎えた。運営する「おむすび会」の代表は森本さんの妻の美佐子さん(49)が務める。住民グループ「ピチトマト」 で、学生たちの食事の世話をした実績から頼まれた。「地域が自立するには、自立した人間をつくることしかない」と森本さん。
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 瀬戸内海を見下ろす伊予市双海町串の小高い丘一帯で昨年5月、若松進一さん(61)が「人間牧場」の建設を始めた。
 中心になる施設は「水平線の家」。長男で建築家の一心さん(33)と議論しながら完成させた。
 向灘の水平線に面したガラス戸はすべて開け放すことができ、見えるのは海と空と雲だけ。若者や子どもたちを集め、周囲の荒れた土地を耕してジャガイモを植え、ツリーハウスを作って遊ぶ……。アイデアは次々に膨らむ。
 若松さんは青年団に入ったのを機に地域活動を始めた。若者が夜を徹して話し合うたまり場にと77年春、自宅の庭に廃材などを利用して4畳半の私設公民館「煙会所」を建てた。囲炉裏を囲んで車座となって語り、夕日の町づくりの構想も練った。だが、約30年の時が過ぎ、心が疲れた現代の大人たちに、まずは昼寝でもしてほしいと「人間牧場」づくりを思い立った。
 「病んでいる心を解き放す場。 『遊び心』 と『学び心』を実践する場所にしたい」
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 若松さんは毎週水曜夜、愛媛大学法文学部の非常勤講師として、総合政策学科夜間コースの学生たちにまちづくりの講義をしている。
 今年度の受講生は26人。旧双海町(伊予市) など、ユニークな町づくりに知恵を絞っている県内4市町でフィールドワークを実施。住みたいまちや訪ねたいまちの条件を探らせた。
 教える側と教わる側の関係は、まるで太鼓の響き合いだ。 大きな音を打ち鳴らすと、大きな音がこだまとなって返ってくる。 この3年間、講義を重ねる中、若松さんは教える側の責任を痛感した。その経験から、煙会所で熱く語った30年前の若者も、今の若者も根っこは同じと信じている。
 「自立する人を育て、すてきな人と縁を結びたい。夢の風船は膨らみ続けています」
 この言葉に、アントレプレナーの思いがすべて込められている。

学生たちに農村の生活や文化、抱える課題などを説明する森本さん=内子町大瀬の川登筏の里交流センター「いかだや」で
向灘に面した水平線の家のテラスに立つ若松さん。「視界いっぱいに海と空が広がる」と話してくれた=伊予市双海町串で